2016年03月01日

10年後、生き残る理系の条件

本日は竹内健 氏の
10年後、生き残る理系の条件
です。


本書は注目している竹内さんの新刊ということで
迷わずに購入しました。


本書の著者の竹内氏は、
東芝のフラッシュメモリ立ち上げの主要メンバーで、米国でMBAを取得。
現在は中央大の教授で半導体メモリ、SSD、
コンピューターシステムの研究開発で世界的に知られています。

そんな、普通のエンジニアとは少し違う経歴を持った著者が
現代の厳しい時代を、エンジニアがどう生き残っていくか
というテーマについて書いています。

本書を読んで思うのは、伝統的な日本の大企業は
圧倒的に古いということです。

外の世界はケタ違いのスピードで動いているので、
社内の論理で仕事をしていると、
世間的にはあっという間に時代遅れになってしまいます。

多くのエンジニアはそんなことにうすうす気づきながらも、
不安を持つだけで、具体的に何をすれば良いかは
わからずにいることでしょう。

そこで、本書の登場です。
本書では、大企業と外の世界を対比させながら、
著者がこれからのエンジニアのキャリアの作り方を説きます。

厳しい時代ですが、逆をかえせばチャンスも多いと言うことです。
そんなチャンスの活かし方も教えてくれます。


個人的には、
日本の大企業では、どう社員を伸ばしてくか、
モチベーションを上げていくかが「真空状態」になっている、
という箇所に興味を持ちました。


なんとなく将来に不安がある、若いエンジニアにお勧めです。
エンジニアとして、どのようなキャリアを築いていくべきか
その指針を得られるでしょう。



産業の変化のスピードに人のスキルの変化が追従することは難しい。
企業は再教育よりも即戦力を中途で採用するようになっていますし、
個人としても企業が再教育してくれるのを座して待っている
会社頼みの姿勢ではもう遅いのです。


今から振り返ると、エンジニアとして旬の時期に技術開発を中断して
MBAに留学したり、フラッシュメモリの絶頂期に大学に移ったり、
変わることこそが自分の強みだったように思います。
天才エンジニアではない、狭い専門分野の技術だけでは負けてしまう、
という劣等感があったからこそ、惜しげもなく転進できたのでしょう。


回路設計の研究は学生の人気も高く、
せっかく若い世代がやりたいと思ってくれているのに、
日本から研究活動がなくなるのは残念なことです。


電機や半導体関連の集まりに顔を出すと、
「いつかはきっとよくなる」と言う人も多くいました。


リストラを繰り返して徐々に衰弱する企業に比べ、
エルピーダメモリのエンジニアは全力で走り、突然倒れ、
そしてまたいま全力で走っているように見えます。
(中略)
エルピーダメモリのエンジニアの方々は、
全力で走っている途中で会社がつぶれたとしても、また立ち直れる、
ということを証明してくれているように感じます。


技術トレンドの追求をするだけでは、世界的な競争で勝つのは難しい


日本の大企業の場合は、担当者、組織の下のレイヤが優秀ですので、
意思決定者が
「頼りになるのは自分だけで自ら技術の細部まで把握しなければならない」
というケースは稀かもしれません。


これまで手がけていた分野から、少しだけ分野をずらせば、
人材難のところも多いものです。
魚釣りにたとえるなら、魚がいそうなところに行って
糸を垂らすのです。


フラッシュメモリというハードウェアだけで高い信頼性を確保することは諦め、
メモリを制御するソフトウェアも含めたシステム全体で
高い信頼性を確保することにしたのです。


フラッシュメモリのエラーを訂正する技術をシステム側に持ってもらうことは、
顧客(フラッシュメモリを搭載したシステムを作る側)にとっては
負担・コストが増えることになりますので、顧客から大きな反発がありました。
しかし、フラッシュメモリは自らが「壊れることを宣言した」ことにより、
微細化・大容量化が容易になり、顧客としても世界でもっとも微細化が進んだ
大容量のメモリ(現在では15ナノメートル世代の128ギガビット容量)を
入手することができるようになったのです。


日本企業のようなボトムアップの意思決定では、
世界の厳しい競争に勝ち残るのは難しくなっています。


「必要な技術はわかった。でも、それを開発したところで
半導体メーカーは儲からなくて、グーグルのようなサービス企業が
利益の多くを持っていくのではないか?我々半導体エンジニアは
どうやって食べていけばよいのだ?」
それに対する、グーグルのエンジニアの答えが秀逸でした。
「確かにそうかもしれない。それならば、半導体のエンジニアは
サービス企業に転職すればよいのです。自分も以前は半導体メーカーで
CPUの回路設計をしていて、グーグルに転職したのです」


最初に設立されたときのルネサスの平均年齢が異常に高かった。


日本企業の中でマネジメントをどうしていくか、どう人材を伸ばすか、
どうモチベーションを与えるかっていうことは、
実はけっこう真空状態になっていると私は思います。
もちろん、新興企業の創業者みたいな方はすごく考えてますが、
歴史と伝統のある大企業ほどそこは真空地帯というか、
ある意味タブーになっている感じはあります。


一番ダメな人材っていうのは何かと聞くと、
お前は何を作りたいかと言われて出てこない人なんですよ。
携帯電話は?― 面白いですね。
半導体は?― 興味あります。
ソフトウェアは?― 僕ちょっとタグ使えます。
とか言うんだけど、じゃあ何をやりたいの?
と言われると答えが出てこない。


スキルを広げていこうと自ら希望して異動をする人と、
同じ部署で同じことを延々とやろうという人では、
その企業に長くい続ける場合には後者が有利な一方、
前者の方が外に出たときに価値が出ますよね。


労働市場での人材価値を高めるのと社内価値とは
全くベクトルが違うんですよね。








engineer_takafumi at 23:23│Comments(0) ★理系本の書評 | ⇒ 理系の人・理系社会

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