2017年11月16日

経済数学の直観的方法 確率・統計編

本日は長沼 伸一郎氏の
経済数学の直観的方法 確率・統計編
です。
経済数学の直観的方法 確率・統計編 (ブルーバックス)

本書は経済数学の直観的方法 マクロ経済学編に続いて
確率・統計(確率微分方程式)について解説したものです。


本書では標準偏差をスタートに、
ブラック・ショールズ方程式まで、
その考え方や背景を直観的に説明してくれます。

私の場合、確率微分方程式というものには、
まったく前提知識はなかったのですが、
一応、それが何であるかは理解することができました。

これは数学の専門書で学ぶと本当に難解です。
また、私にはその必要もありません。
ですので、知見を広げるという意味で、
さわりと本質だけを解説するこの本は嬉しい一冊でした。

また、数学的な事項だけでなく、
経済に対する著者なりの考察などもあり、
その部分も大変興味深かったです。


個人的には
拡散が √t に比例する、というところの
解説が大変参考になりました。

なぜ、標準偏差は2乗の平方根なのかという、
長いあいだ疑問に思っていた問題が解けました。

経済学を学ぶ学生はもちろんですが、 
確率・統計を勉強したい理系の学生にお勧めです。
経済数学に視野を広げながら、
確率・統計の真髄に近づくことができる一冊になるでしょう。




「標準偏差がよくわからない」
という悩みを抱えていたとすれば、
実はそれはむしろ健全なことなのである。
なぜかというと、この概念が確立されるまでには、
数学的にも複雑な紆余曲折を経ているのだが、
高校レベルではそれを説明しきれないので、
実際には難しい重要部分を最初からカットして
半ば無理矢理にきれいな体系に直して教えている。


二項分布を無限回にしたものが正規分布であるとも言えるし、
逆に正規分布を有限回に落とし込んだものが二項分布だとも言える。


普通なら、そのように影響を受ける要素が増えるほど、
問題は複雑化し、到底人間の手に負えないほどの
ものになってしまうはずである。


「予想理論を作っては破綻する」という
営み自体も観察対象とする形で、
これを数十年、数百年にわたって天から眺めて、
それら全てを包括した巨大な統計をとってみると、
無数の予測理論が作り出すピークによるバイアスも
やはり同様に相殺・平均化されていき、
ついに神の指紋たる正規分布のパターンが、
壮大な形で再びそこから姿を現す、
ということになるはずである。


「拡散が√t で拡大する」ということさえ
結論として覚えておけば十分なのであり、
それさえ覚えていれば、
ブラックショールズ理論の中身自体は
十分に理解できるはずである。


平面上のベクトルの長さ(つまり先ほどの拡散半径)
を「ベクトルの絶対値」と呼ぶ習慣になっており、
これらを見ると「絶対値」という概念を介して、
話が1次元から3次元までかなりシームレスに
つながっていることがわかる。


現実の世界では確かに貿易国家は
一時的に損失を被ることはあったものの、
長期間の平均で見れば恒常的に繁栄を続け、
それどころかむしろそちらが次第に農業国を圧倒して、
文明世界全体が「農業から商業へ」のシフトを
一方通行的に起こすという、
重大な世界史的結果をもたらすことになったのである。


良い例が日本の江戸時代の経済社会体制で、
これは意識的に農耕的な停滞社会を作ろうとしたという点で、
世界史的に見ても稀な事例だったと言える。


この体制を維持するためには、
商業による経済成長はむしろ無い方が望ましく、
そのため政権側は、進歩やイノベーションそのものを危険視して、
「トレンド」への投資が行われない
停滞的な経済を作ろうとしたのである。


トレンド型の資本主義や金融は強制的に抑制できても、
ボラティリティ型の資本主義や金融は結局は除去できない。


世界を多少強引な二分法で
「指数関数型=トレンド型」と「直線型=ボラティリティ型」
に分類した場合、イスラム金融は少なくともシステム上は
前者には属さないことになる。


過去の世界でそれなりに持続可能だった金融のシステムは、
たとえ正確には厳密な直線ではなかったとしても、
大きく見れば実は基本的に「直線的」ではなかったか、
という意外なビジョンが姿を現すことになるのである。


「確率微分方程式」という学問だが、
これは日本人数学者の伊藤清によって
1940年代に確立されたもので、意外に若い学問である。


「確率微分方程式」などというと如何にも
難解に聞こえるが、その基本的な形は単純で、それは、
dx = A dt + B dw
というものである。


邪魔なB dwの部分は脇において、
一番欲しかったA dtの部分の情報を直接得ることができるからである。
そして実はその夢を可能にしたのが
「伊藤のレンマ」だったのである。


2次の項つまり 1/2 d2F/dx2 dx2 などの出番が訪れるのは、
何らかの形で第1項がうまく使えない場合などがほとんどなのだが、
ところが伊藤のレンマやそれに基づいて作られた
ブラック・ショールズ理論だけは少し事情が異なり、
むしろそこではその第2項の方が主役的な役割を果たしていて、
極端に言えばこの第2項だけが非常に貴重なのであり、
そこが一般の他の用法と比べた場合の大きな特徴である。


例えば空気の集団などが、
全体としてはゆっくり移動しているが、
細部では各分子が激しくジグザグ運動している
という状況を考えると、後者つまり分子のミクロ的な
ジグザグ運動の速度は前者より遥かに速く、
オーダーの点でも2桁ほど大きなものになっている。


とにかくそのようにすれば、最終的にdw2 = dt の式が
きちんと統合で結ばれるようになる


確率統計論の長い発展史では、
なんと言ってもガウスの正規分布の発見が
重要度において不動の1位であることは絶対に揺るがない。
ではそれに次ぐ第2位クラスの画期的な発見は何かというとき、
この伊藤のレンマはその候補の筆頭の資格を十分備えている


ミクロ的なジグザグ運動は、
カメラを引いてマクロ的に眺めれば、
全体としては滑らかな動きをしているように見えるが、
しかし基礎部分にこういう論理の穴を
抱えていることに変わりはない。
そのため確率微分方程式論は、
この論理の穴を埋めるために大変な努力を払って、
こういう場合にも普通の微積分と同じことができるように
体系を構築せねばならず、多くのページがそれに割かれている。
実際その積分をきちんと定義するためには
「ルベーグ積分」という技法を使う必要がある


確率微分方程式の思想は、
普通の微分方程式とは考え方の根本が少し違っており、
ここではとにかく個々の運動を求めることそれ自体より、
「2つの部分を分離する」ことが
それを上回る最大の関心事となっている。


不連続にいくつかの点でジャンプする関数を
積分するということは
結果的にルベーグ積分の一種の特技となったのだが、
その特技が確率論では大いに生きることになった。






engineer_takafumi at 23:47│Comments(0)★理系本の書評 |  ⇒ 数学

コメントする

名前
URL
 
  絵文字