2018年07月19日

殺人出産

本日は村田 沙耶香 氏の
殺人出産
です。


10人産んだら1人殺せる。

近未来にはセックスと生殖が完全に分離し、
生殖は「産み人」の仕事となる。
「産み人」はひたすら10人の子供を
妊娠、出産し続ける。

そして、10人産んだ後には、
1人の殺人が認められる………。

今の常識から見ると、異常な世界です。
しかし、この世界と今の世界のどちらが異常なのか、
それは誰も決めることができないのです。

そんな今と違う世界を綴るのがこの小説です。

突拍子な設定ももちろん、そんな奇妙な世界を、
正確に描写する村田さんの文章に引き込まれます。


個人的には、「余命」というお話の、
医療がここまで発達する前は、
死は向こうから勝手にやってくるものだったという。
楽でいいなあと思う。
今はわざわざ、人目を気にしてセンスのいい死に方を
探しながら自分を葬らなくてはいけないのだから。

というセリフが印象的でした。


常識が嫌いな人にお勧めの一冊です。
常識が異なる世界の話を聴くことで、
自分の価値観を疑うことができるでしょう。



昔の人々は恋愛をして結婚をしてセックスをして
子供を産んでいたという。
けれど時代の変化に伴って、
子供は人工授精をして産むものになり、
セックスは愛情表現と快楽だけのための行為になった。
避妊技術が発達し、初潮が始まった時点で
子宮に処置をするのが一般的になり、
恋をしてセックスをすることと、
妊娠をすることの因果関係は、どんどん乖離していった。


偶発的な出産がなくなったことで、
人口は極端に減っていった。
人口がみるみる減少していく世界で、
恋愛は結婚とは別に、
命を生み出すシステムが作られたのは、自然な流れだった。
もっとも現代に合った、合理的なシステムが採用されたのだ。


殺人出産制度が導入されてから、
殺人の意味は大きく変わった。
それを行う人は、「産み人」として
崇められるようになったのだ。


「産み人」としたの「正しい」手続きをとらずに
殺人を犯す人もいる。
逮捕されると、彼らには「産刑」という
もっとも厳しい罰が与えられる。
女は病院で埋め込んだ避妊器具を外され、
男は人工子宮を埋め込まれ、
一生牢獄の中で命を生み続けるのだ。


命を奪ったものは、命を生みだす刑に処される。
こちらのほうがずっと知的であり、
生命の流れとしても自然なことなのです


普通、身内に『産み人』がいたら、自慢するでしょう?
政府からの補助金も大きいし、何より
命を産み落とす存在として崇められているのだから。


大丈夫ですよ。だって、私たちには殺人があるのだから。


私たちの世代がまだ子供のころ、
私たちは間違った世界の中で暮らしていましたよね。
殺人は悪とされていた。
殺意を持つことすら、狂気のように、
ヒステリックに扱われていた。


デートって……それはいいけれど。
ちゃんとカップルでデートするんでしょうね


私たち十代の間では、今、カップルよりも
トリプルで付き合っている子たちの方が多い。


リカは、『カップル』、つまり
二人きりで付き合っている恋人がいる。


朝まで徹底討論!
トリプルとカップル、どちらが真実の恋人の姿か!?


走りながら思った。
自分もあんな行為の末に生まれたのだろうか?
嘔吐感がこみあげてきて、公園に着いた瞬間、
地面にぶちまけた。


あんなおぞましいことで私は生まれたの?
トリプルの、ちゃんとしたセックスで
生まれた子になりたい。
あんな不気味な行為で生まれただなんて、信じたくない


『正しいセックス』なんて、この世にきっと、ないんだよ。
僕たちにとってあれが正しいみたいに、
きっとお母さんや友達にとっては、
カップルのセックスは正しい行為なんだよ


恋愛の延長線上で家族を探すということに、
僕には違和感があるのです。
家族なんだから恋愛感情を抜きで、
男でも女でもない、ただの家族として
パートナーと向き合いたいんです。


いろいろとネットで調べて、
セクシャルマイノリティの人がやむを得ない事情で
生殖行為をする時のための専門のクリニックが
あることを知った。


クリーン・ブリード。
直訳すると、清潔な繁殖という意味です。
私達た提供する医療行為としてのセックスは、
快楽を目的としたものではありません。
それと差別化するために、このような呼び方をしています


おしゃぶりとよだれかけを付けて四つん這いになっている
夫の画像はなかなか興味深かった。
彼が性のパートナーが自分でなくてよかった、
としみじみ思った。


お客様、そろそろ死ぬ予定がおありなんですか?


人口は爆発するかと思われたが、意外にそうではなく、
私たちは、「そろそろかな」と思ったときに、
自分で好きなように死ぬようになった。


医療がここまで発達する前は、
死は向こうから勝手にやってくるものだったという。
楽でいいなあと思う。
今はわざわざ、人目を気にしてセンスのいい死に方を
探しながら自分を葬らなくてはいけないのだから。





engineer_takafumi at 23:51│Comments(0) ★一般書の書評 | ⇒ 小説

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