2019年05月22日

時間とはなんだろう

本日は松浦 壮 氏の
時間とはなんだろう
です。


本書は「時間」の正体に迫る一冊です。


時間の本質は何かが変化していること、
というある意味当たり前の話から始まります。

しかし、「時間は誰から見ても一定に流れる」
という人間の直感に反する結論が出るため、
時間の定義がとても重要になってくるのです。

そして、古典的な時間の解説を経て、
特殊相対性理論、一般相対性理論へと進みます。

数式は最低限で、言葉や図で表現するように
配慮されているので、数式が苦手でも読み進められます。

その後、電磁気学や量子力学の初歩的な解説を経て、
超弦理論にまで行きあたります。

「時」という観点で、超弦理論までカバーする
ストーリーは興味深く、現代物理学の流れがつかめる
一冊だと感じました。


個人的には、「繰り込み」に対する説明が印象的でした。
普通の本だと、すぐ数学の話に入ってしまって、
意味がつかみづらかったのですが、
本書でその意味を知ることができました。


現代物理学の流れを勉強したい人にお勧めです。
最低限の数学で、現代物理学の全体像を
つかむことができるでしょう。



「時間とはなんだろう?」という問いに答えるための王道は、
ものが動く様子を詳しく眺めることです。


私たちは、ほとんど無意識に
「時間が流れているからものが動く」
と考えてしまいますが、
自然な発展の順序から言えばこれは逆です。
ものが動くから時間を認識できるのです。


時間の経過が記録できているということは、
何らかの形でものが変化しているということです。


直観的に正しいことが必ずしも物事の本質を
捉えているとは限らない


絶対静止系はどんな物理現象を使っても原理的に観測できません。
実験の精神の下ではそれは存在しないのと同じです。


ローレンツの模型も、落ち葉や天体の例も、
最初の条件が決まれば後の時間変化は
法則によって完全に決まります。
それにもかかわらず、
その運動はランダムと区別がつかないほど複雑で、
しかも、初期条件をわずかに変えるだけで
運動の様子を大きく変えてしまうのです。
この性質を「初期値鋭敏性」と呼びます。


観測結果を説明するために
相対性原理と光速度不変の原理が必要で、
ニュートンの運動法則にこだわった試みは全て失敗している。
この状況を正確に認識し、
むしろニュートンの運動法則を修正するべし、
という決断を下し、それをいち早く成し遂げたのが
アインシュタインだったのです。


これは単純に私たちの日常の感覚が
「絶対時間」に捕らわれているせいです。
そして、度々「時間は時計で測るもの」
と強調してきたのは、まさにこのときのためです。


となると、時間は、もはや例えではなく、
本当の意味で空間と同列の「方向」のひとつとみなせます。
特に静止状態では、1秒が経過すると時間方向に
30万km移動するから、
「静止状態の物体は時間方向に光速で移動する」
と言って構わなくなります。


直観的に言うなら、時空での速さが変わらないために、
空間方向に速度が割り振られ、その分だけ
時間方向の速さが割を食って遅くなる、ということです。


地上で静止する私たちは加速系にいる
ということです。
逆に、重力(慣性力)が消える自由落下状態こそが
慣性系ということになります。
確かに、地上で止まっている人は、
自由落下する人から見ると上向きに加速しています。
重力はこの加速から生じる慣性力である、というのが、
今の仮説の下での重力の解釈になります。


衛星軌道上を飛ぶ人工衛星の中では、
高速で動くことによる時間の遅れよりも、
高い所にいるために生じる時間の進みの方が大きくなり、
結果として地上の時計よりも進みます。


重力と慣性力は本当に同じ力だったのです。
この認識は、今では仮説から原理に格上げされ、
「等価原理」の名前で呼ばれています。
私たちが住む地上は実は加速系で、
地球に向けて自由落下する状態こそが慣性系です。
地上の重力は、地面が自由落下を食い止めているために
生じる慣性力なのです。


相対性原理が特殊から一般に拡張されたために、
加速運動すら見かけの運動になり、
重力による加速運動もまた時間経過の一部と
みなせるようになった、という訳です。


重力は、観測者の基準と慣性系の間の歪み(ずれ)
に反応して発生する力です。
その意味で、観測者の立場から見た時空の歪みは
「重力場」と呼ばれます。


日常生活で目にする物体が接触したときに働く力は、
電子間に働く電気的な反発力よりも、
電子が持つ「同じ状態には1個の電子しか入れない」
という性質の方が強く効きます。


マックスウェルは、実験的な証拠は一切ないまま、
「その方が美しいから」という、
思わず頭を抱えたくなる理由で
アンペールの法則を書き換えてしまったのです。


実質的には、作用の極小値からプランク定数程度の
幅に収まるような運動だけが生き残ることになります。
その意味で、プランク定数は古典理論の厳密な縛りを
どの程度緩めるか、という度合いに対応する
と言っても良いでしょう。


量子の間に働く力もまた、
量子が作り出す調和(ハーモニー)の結果なのです。


あるスケール以下の運動の影響を予め足し上げ、
その影響を盛り込んだ新しい自由度を使って
より粗いスケールに適用できる理論を作るプロセスを
「繰り込み」と呼び、でき上がった理論を
新しいスケールにおける「有効理論」と呼びます。


一般相対性理論が大きなスケールでちゃんと
現実を説明できるからと言って、
もっと細かいスケールで同じように使える保証は全くありません。
むしろ、そのスケールでの重力理論は、
一般相対性理論とは似ても似つかない形を
していると考える方が自然です。
一般相対性理論が繰り込み不可能であるために、
そのまま量子化の手続きを適用してもうまくいかないだろう、
と述べた心はここにあります。


一般相対性理論は時空の理論です。
この理論が小さい領域で姿を変えるということは、
今私たちが想像している「時間」は、
図8−1の泥団子のようなもので、
もっと小さい領域では全く違った姿を
していることを物語っています。
この小さい領域を支配している重力理論を
「量子重力理論」と呼びます。


宇宙の成り立ちを説明するために
必ずしも4次元時空を出発点にする必要はない、
という認識が得られたのは大きな発想の転換です。
つまり、量子重力理論が慣性した暁には、
時間が1次元で、空間が3次元であることにすら
理由は提供されるだろう、と期待できるのです。








engineer_takafumi at 23:30│Comments(0) ★理系本の書評 | ⇒ 物理・科学哲学

コメントする

名前
 
  絵文字