2022年06月26日

デザインの仕事

本日は寄藤 文平 氏の
デザインの仕事
です。


本書の著者はグラフィックデザイナーで
広告やプロジェクトのディレクションと
ブックデザインを中心に活動されています。


そんな著者が本書で
しっかりと「デザイン」について語ります。

デザイナーとして駆け出しの時代から、
今まで時代がどんな風に変わってきたか。

そして、アイデアの作り方や
ブックデザインの仕事についても触れます。

デザイナーが仕事をするときに
どんなことを考えているか、
そして何を基準に判断しているか
言葉でしっかり綴られています。

一流のデザイナーの思考を垣間見れる
楽しい本でした。

個人的には、
JTのたばこのマナー広告について
語られた箇所が印象的でした。

マナーですから正しいことなのですが、
それを表現する時には
「正し過ぎてもだめ」になるのです。


デザインなどの制作物に関わる方は
ぜひ、読んで欲しい一冊です。
一流クリエイターの判断基準が
学べるでしょう。




これまでのイラストレーターが作家性とか個性とか、
「自分らしさ」みたいなものに拘泥して、
現実のビジネスとしっかり対決してこなかったから、
イラストレーターの報酬は低く、
本物の個性が次から次へと消費されているじゃないかと。


本当に「自分らしく」あろうとするなら、
まずは金を稼ぐしかない、金を稼ぐんだったら
頭を使って「個性」でも「手法」でも何でも、
手持ちのものを全部さらして、売っぱらうしなかい。
それが当時の僕のリアルな答えでした。


ロジックやストーリーといった道具は、
多く使いすぎるとインフレが起きていきます。
シンプルなアイコンとストーリーの組み合わせで
コミュニケーションを設計し続ければ、
「物語インフレ」のようなものも起きるんです。


たばこのマナー広告ではあるんですけど、
本当に伝えてきたのは、正しすぎてもだめで、
正しくないのはもちろんだめで、
その間にあるところのものに価値があるんだという、
そういうメッセージだったように思うんですよ。


子どもの描いた「人間」の絵ってありますよね。
自分が無関心な「誰か」を描いた絵って
すごくツルッと描いてある気がします。


考えた量が多いほど、絵との間にギャップが生まれて、
そのギャップを埋めようとするプロセスが
絵の中にきちんと表れるというか、
それを感じとるセンサーが人間には
備わっていると思うんです。


考えてきたことの内容が問われるというのは、
人物画だけではないかもしれません。
こういう風景を本当に見たことがあるのか、
それに触れたことがあるのか、
といった作者の経験を含めて、
絵の中に知らず知らずにじみ出てしまうところがあります。
デッサンを見るだけで、どんな考え方をする人か、
よくわかるんです。


アイデアがうまく形にならない時というのは、
抜本的にうまくいっていない場合が多い、と思います。
たとえば、割と初期の段階で、
レイアウトの細かい文字の間隔とか、
同じ書体の微妙なバリエーションとか、
0.5ミリ単位の位置の違いみたいなものを調整しはじめたら、
そのアイデアはうまくいっていない可能性が高いんです。


印刷所という厳密な手続きを
一つ一つ踏んでいく日常業務の現場に、
デザイナーだかなんだか知らないのがのこのこやって来て、
もっと鮮やかにしろだの何だの
偉そうにふるまったりすれば、
「こいつ、引っぱたくぞ、この野郎」
みたいに思われている可能性もあります。


僕は最初にパンフレットを見た時、
あまりにまっすぐにメッセージが刺さってきて、
とても受けとめきれませんでした。
「これ、ちょっと辛いなあ」というのが、
僕の正直な感想でした。


直截に「このパンフレット、辛すぎてダメだ」と、
敢えて自分の中で言葉にしてしまいます。
切実で嘘のない表現であっても、
それに対する正直な感想が「ダメ」なら
それを無視したり押さえこんだりしないで、
自分はそう感じたっていうことをハッキリ認めてしまわないと、
いくらアイデアを考えても、「アイデアごっこ」に
なってしまうような気がするんですよ。
そして、その感想は、きちんと依頼主にも伝えます。


ある前例があって、それを基準にものをつくるというのは
すごくリスクの少ないやり方ですよね。
既にあるものと似たものを作るということですから。
だから、依頼の真意は「リスクの少ない本を作りたい」
ということなんです。


「いい本」と「売れる本」の両方を
兼ね備えられるデザインとは何か、といえば、
やっぱりタイトルの大きさなんです。


これまでにない本を作ろうとする時には、
誰にも正解がわからないわけで、
「自分はこれがいいと思う」
「これでいくと決める」という
覚悟のようなものがよりどころになるのだと感じました。
売れても売れなくても、そこは変わらないと思います。


うまくいくシステムっていうのは、
悪い意味での「慣れ」みたいなものとも裏表なんですよね。
よく「構造的な問題」といった言い方をされますが、
その問題もかつては、構造的になれるぐらい、
うまくいくシステムだったに違いないんです。





engineer_takafumi at 10:05│Comments(0) ★一般書の書評 | ⇒ クリエイティブ

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