2021年09月06日

生物はなぜ死ぬのか

本日は小林武彦 氏の
生物はなぜ死ぬのか
です。


本書の著者は東京大学の
定量生命科学研究所にてゲノムの再生を
研究している研究者です。

そんな著者が学者から見た
死生観を解きます。

結論として「死」は生物が命を次世代に
繋ぐために絶対に必要なもので、
遺伝子にプログラムされているのです。

人間から見ると「死」は
忌み嫌うものであります。

しかし、生物としての観点から見ると、
多様性を確保し、優れた個体を残すための
仕組みと考えられるのです。

死は人間にとって常に重大なテーマでした。

宗教、倫理、様々な分野で
このテーマを研究してきました。

その中で純粋に生命科学としてみた時の
死生観を加えることは、
より人生を有意義にするための
要素だと感じます。

それにしても、生命の巧妙さに
あらためて関心させられると共に、
こんな複雑なものが「偶然」生まれたことは
まさに奇跡としか言いようがないことを
再確認することができました。


個人的には、
小型のマウスはほとんど
捕食されて死んでしまうので、
人のように病気や老衰に備える必要がない
という部分が特に印象的でした。

薬品の動物実験として
マウスが使われていますが、
人との生態の違いを考えると
あまり適切ではないのかもしれません。


「死」について考え直したい方に
お勧めの一冊です。
宗教や道徳と違った死生観を知ることが
できるでしょう。





例えば天文学の羨ましいところは、有用性、
つまり役に立つことをあまり要求されないことです。


最大の壁は「自己複製」の仕組みです。
そもそも生物の定義の一つは、自身のコピーを作る、
つまり子孫を作るということです。


ウイルスは、自己を複製するということでは
「生物的」ですが、細胞の外では増えることができず、
なおかつエネルギーの消費も生産もしないという点では
「物質的」です。


生命が地球に誕生する確率を表すのに、
こんなたとえがあります。
「25メートルプールにバラバラい分解した腕時計の部品を沈め、ぐるぐるかき混ぜていたら自然に腕時計が完成し、しかも動き出す確率に等しい」


なぜ、ヒトは桜に惹かれ、それを好み、
美しいと感じるのでしょうか?
生物的には次のような説明が可能かもしれません。
それは「変化」です。ぱっと咲いてすぐに散る。
(中略)
ヒトは本能的に新しく生まれたものや変化に
まず惹かれるのです。


生まれ変わりを支えているのは、
新しく生まれることとともに、綺麗に散ることです。
この「散る=死ぬ」ということが、
新しい生命を育み地球の美しさを支えているのです。


DNAは2本鎖のらせん構造をとりやすく、
RNAよりも安定して分解されにくい性質を持っています。
逆にRNAは不安定な分、反応性に富んでおり、
自己複製や編集をしたり、他のRNAやたんぱく質などとも
結合しやすい性質を持っています。


はじめは、壊れやすく反応性に富んだRNAが
遺伝物質として使われたと考えられています。
壊れやすいということは
「作り変えやすい」「変化しやすい」と
ポジティブに捉えることもできます。


DNAのほうが安定でしかも2本がくっついた
二重らせん構造なので、より長い分子が維持できる。
つまりたくさんの遺伝情報を持つことができます。
そのため、RNAに代わってDNAが選択されて
使われるようになったと推察されます。


細胞は、炭水化物を燃やしてエネルギーを作り出しますが、
そのときに出る活性酸素によってもDNAが酸化、
つまり「錆びて」変質してしまいます。


DNAも壊れっぱなし、傷つきっぱなし
というわけにはいかず、
DNAを直す仕組みもできてきました。
このときにDNAの2本鎖という性質が
非常にプラスに働いたのです。
1本が切れても、もう一方の鎖を手本にして、
元に戻すことができるからです。


大部分の過去の生物は絶滅しましたが、
中にはたまたま、「選択」を受けずに、
生き延びたものがいたと考えられます。
いわゆる進化の袋小路に入ってしまったのです。
例えばシーラカンスがそれに当たります。


海底の熱水が噴出する場所に
現在も生きている生物も同様です。
1つの生物種のみが生存する「独占」から
「共存」へとパラダイムシフトが起こりました。


実は現在、地球は生物の大量絶滅時代に突入しています。
私たち人間の含まれる哺乳類だけ見ても、
ここ数百年で80種が絶滅しています。


もっとも最近に起こった大絶滅は6650万年前、
中生代末期白亜紀です。
生物種の約70%が地球上から消えたとされています。
恐竜も絶滅したのでご存じの方も多いと思います。


恐竜をはじめ多くの生き物が死んでくれたおかげで、
次のステージ、哺乳類の時代へと移ることができたのです。
絶滅による進化が、新しい生き物を作ったというわけです。


目の色覚に関する遺伝子は1つ増えました。
夜行性の時代には2色色覚(赤と青)の2つの遺伝子のみでしたが、
赤を認識する遺伝子(L遺伝子)が遺伝子増幅
(同じ遺伝子が2回複製される現象)によって2つに増え、
増えた1つが変異を起こして全体の4%が変化し、
緑の波長に反応する遺伝子になりました。


ヒトの色の見え方は文字通り「色々」なのです。
色彩豊かな絵を描く人は、
実際にそのように見えているのかもしれませんね。


多様な個体が多様な集団を作り、
多くが絶滅する中でたまたま生き延びた集団が
あったというわけです。


「死」も進化が作った生物の
仕組みの一部だということです。


カゲロウの成虫の寿命は、わずか24時間足らずで、
脱皮して交尾、産卵のあとは急速に老化し、
まるで終了プログラムが起動した
機械のように死んでいきます。
なんと彼らには口がありません。
ほんのわずかしか生きないので、ものを食べる必要すらないのです。
(中略)
無駄に生きないという意味では、積極的な死に方であり、
究極に進化したプログラムされた死と言ってもいいです。


小型のネズミは長生きに関わる機能――
例えばがんになりにくい抗がん作用や、
なるべく長生きできるような抗老化作用に関わる
遺伝子の機能を失っていったと考えられます。
なぜなら、どうせ食べられて死ぬので、
彼らにとっては長生きは必要ないのです。


省エネ体質のさらに有利な点は、
エネルギーを生み出す時に生じる副産物の
活性酸素が少ないということです。


小さい生き物は逃げること、
つまり「(他の生き物から)食べられないことが生きること」、
一方、比較的大きな生き物は自分の体を維持するために、
「食べることが生きること」ということになります。


旧石器〜縄文時代(2500年前以前)には、
日本人の平均寿命は13〜15歳だったと考えられています。


2020年に100歳以上の日本人の数が8万人を突破し、
毎年急速に増え続けていますが、
115歳を超えた日本人はこれまでたったの11名、
全世界でも50名にも満たないのです。


加齢によるDNAの変異の蓄積とともに、
がんによる死亡率が急上昇します。
具体的には55歳くらいからが要注意です。


老化細胞の除去には、細胞自身が「アポトーシス」という
細胞死を起こして内部から分解して壊れる、
免疫細胞によって食べられて除去される、の
2通りありますが、加齢した個体の老化細胞は
このような除去が起こりにくく、
そのまま組織にとどまる傾向があります。


老化細胞がそのまま排除されないで残ると、
組織を害し器官の機能を低下させるのです。


細胞増殖のコントロールに関わる遺伝子が壊れると、
制御不能になってどんどん細胞が増殖し、
がん化することは容易に想像できます。


免疫機構は外部からの細菌やウイルスなどの
侵入者のみならず、
老化した細胞やがん細胞など異常細胞も攻撃し、
排除する働きがあります。


全ての異常細胞を綺麗に取り除いてくれるわけではなく、
厄介なのはがん細胞です。
がん細胞には変異によって正常は細胞のふりをして、
免疫細胞を抑える働き(免疫チェックポイント)を持ち、
攻撃を回避するものがいます。


子供を作りたくなくなるという将来の不安要素は、
当たり前ですが確実に少子化を誘導します。
私は、何も対策をとらなければ、
残念ですが日本などの先進国の人口減少が引き金となり、
人類は今から100年ももたないと思っています。


体の構造が複雑になると、
生命誕生時に行われていたような、
偶然に任せてバラバラにして組みなおすような
フルモデルチェンジは、マイナス面の方が大きくなりました。
(中略)
そこで登場したのが、オスとメスがいる「性」という仕組みです。


組換えは「あればいいな」のレベルではなく、
絶対にないとダメな仕組みなのです。
言い換えれば、配偶子形成は単に
卵や精子を作るための機構ではなく、
染色体の中身までをシャッフルして
可能な限りの多様性を生み出すためのプロセスなのです。


子供のほうが親よりも多様性に満ちており、
生物界においてはより価値がある、
つまり生き残る可能性が高い
「優秀な」存在なのです。
言い換えれば、親は死んで子供が生き残ったほうが、
種を維持する戦略として正しく、
生物はそのような多様性重視のコンセプトで
生き抜いてきたのです。


活性酸素の量が食餌制限によって減少し、
寿命延長に貢献していると考えられています。


ゲノムが不安定化すると、がん化したら困るので、
その前に増殖を止めるべく細胞の老化スイッチを
オンにして細胞の老化を誘導します。


もっとも不安定なリボソームRNA遺伝子が
ゲノム全体の安定性を決めており、
寿命を決めているのです。


野生の生き物は概してそうなのですが、
老年個体のパフォーマンス(体力)も死亡率も、
若年個体とほとんど変わりません。
つまり死ぬ直前まで働き、
ピンピンコロリで死んでいきます。


生き物にとって死とは、進化、つまり
「変化」と「選択」を実現するためにあります。
「死ぬ」ことで生物は誕生し、進化し、
生き残ってくることができたのです。


生き物が生まれるのは偶然ですが、
死ぬのは必然なのです。
壊れないと次ができません。


何よりも私が問題だと考えるのは、
AIは死なないということです。


AIは、ある意味ヒトよりも合理的な答えを
出すようにプログラミングされています。
ただ、その結論に至った過程を
理解することができないので、
人がAIの答えを評価することが難しいのです。






engineer_takafumi at 01:00│Comments(0) ★理系本の書評 | ⇒ 生物・化学

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