2022年12月18日

一生モノの物理学

本日は鎌田 浩毅 氏、米田 誠 氏の
一生モノの物理学
です。


本書は「科学の伝道師」と呼ばれる
京都大学の元教授(現在は特任教授)と
技術者経験もあり、YouTubeチャネルも持つ
予備校のカリスマ物理講師の著者による、
身の回りの技術の中にある物理について
書いた本です。

目の原理、内視鏡、X線・CT・MRI、
そしてノイズキャンセリングやレーダーなど
身の回りにあるテクノロジーに関わる
物理について解説します。

どれも単純な技術ではないのですが、
著者が物理の背景がなくても読めるように
数式を使わず、図と言葉で説明しています。

難解な概念もスラスラ理解できて、
他の本よりもはるかに読みやすいです。

物理の醍醐味である、
仕組みが分かる快感を味わう
ことができるでしょう。


ただ、物理学科出身の私だから言いますが、
「物理はビジネスパーソンにも必須の知識」
とは、全く言えないような気がしますね……。

確かに知ってて損はありませんが、
これが文系の仕事をするに重要かというと
そうではない気がします。

それでも興味があって学ぶ分には、
とても良い入門書だと思います。

テクノロジーが好きな方は文理問わず
いらっしゃると思いますので。


個人的には、
X線、CT、MRIの仕組みの章が
特に興味深かったです。

今まで何気なく聞いていましたが、
その原理の違いがはっきり理解できました。


ペラペラめくってみて、もしくは目次を見て、
興味のある項目がある人にはお勧めです。
分かりやすく、その物理的な原理を
理解することができるでしょう。



物理学は、直接的な社会貢献を目的とする
工学、農学、医学、そして薬学などとは異なり、
「物事の根本を突き止める」
目的意識の強い理系学問といえるのです。


人体は部位によってX線を通す(透過する)度合いが異なり、
筋肉や軟骨、皮膚などは光を透過しやすい反面、
骨はとても透過しづらい性質を持ちます。


骨のX線透過度合いが低いのは、
骨に大量に含まれるカルシウムのせいです。
X線は金属に吸収されやすい性質を持っているのですが、
実はカルシウムは金属の一種です。


レントゲン写真と並んでよく耳にするCTは、
Computed Tomography (Tomography:断層影像法)の
頭文字をとったもので、
コンピュータ断層撮影とも呼ばれる技術です。


CTでは、面ではなくビーム状(直線状)のX線を用います。
撮影対象に向かってビーム状のX線を、
360度の様々な角度から何回も照射して、
体を透過したX線を検出器でキャッチし、
それぞれのX線をの強さをデータとして記録します。
そして、このデータをコンピューターで
再構成処理することで断面の画像をつくり出すのです。


MRIとはMagnetic Resonance Imaging の
頭文字をとったもので、
日本語では核磁気共鳴画像と呼ばれる技術です。
(中略)
MRIはX線を使うのではなく、
強力な磁石(電磁石:electromagnet)と電磁波(電波)を使い、
体内を映像化する技術です。


体内の水素原子核は、
外部からかけられた磁場の向きに合わせて、
本来とは違う向きに傾けられます。
方位磁石の近くに永久磁石を近づけると
方位磁石の向きが変わるのと同じです。
そのうえで外部からの磁場を一気になくすと、
磁石である体内の水素原子核はそれぞれが
本来の向きに戻ろうとするため、
水素原子核の磁場の向きが変化します。


がん細胞に狙いを定め、
その位置で重粒子を意図した速さまで失速させ、
大きく放射線を放出させることで、
がん細胞のみに放射線を照射し破壊することができる


この重粒子ですが、がん治療の際、
加速器からとんでもないスピードで打ち出されます。
そのスピードは、実に光速(約30万km/秒)の60〜80%ほど。
無理やりマッハで表すと、
マッハ60万前後にもなってしまいます。


空気を圧縮するのは、体積が小さい方が
燃料の噴霧および燃焼が短時間で万遍なくでき、
燃焼効率が上がるからです。


気体とは激しく運動している多数の粒子からなり、
圧力とはその粒子が衝突することで外部に与える影響である


フェーン現象は数年に一度は起こるので、異常気象ではありません。
人間には珍しく思える気象現象も、物理学の目で見ると、
地球上ではよくある現象なのです。


P波がどんな物体の中でも伝わっていくのに対し、
S波は固体の中だけでしか伝わらないのです。
というのも、液体と気体はねじることができないので、
振動が伝わらないからです。


地球の最深部にある核のうち、
外側の外核はS波を通さないため、
液体であることがわかったのです。


深海が真っ暗なことからもわかるように、
太陽の光であっても、
水中においてはその波の伝達に限界があり、
深くまで照らすことはできません。
せいぜい数十メートルでしょうか。
その理由は、光が水によって
「吸収」「散乱」されてしまうからです。


水中の通り地点にある物の認識には、レーダーではなく、
水中で伝わりやすい音波を用いた
ソナーシステムが重宝されるのです。


地球を包み込んでいる巨大な磁場は
「地球磁気圏」と呼ばれています。
この地球磁気圏は、宇宙から絶えず降り注ぐ
帯電した粒子(宇宙線)の侵入を防ぐ役割を担っているのです。


人間が見ることのできない赤外線を、
機材を使って感受しているのが赤外線カメラですから、
赤外線に対応する彩りは存在しないのです。


わからなかった箇所で固まってしまう必要はなく、
先に進んでから振り返ると
「なんーだ」ということになります。


物理や数学では練習問題をたくさん解かせます。
その意味は、初学者が理解しにくいところでは、
まず操作に習熟させるためです。
そもそも問題集をこなすとは、
棚上げの練習をしているといってもよいくらいなのです。





engineer_takafumi at 08:57│Comments(0) ★理系本の書評 | ⇒ 物理・科学哲学

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